経営者と銀行担当者が喜びあう横で私が感じていたこと。~業績絶好調の会社にひそむリスク~
皆さま こんにちは!
老後の安心と家族の幸せづくりの専門家 ファイナンシャル・プランナーの寺田尚平です。
毎日、暑い日が続きますが、いかがお過ごしでしょうか?
週末(8月28日)には、安倍首相が辞意を表明され、7年8ケ月に及ぶ歴代最長政権が幕を閉じることになりました。
11月には、アメリカ大統領選があり、報道によると、現在、民主党のバイデン氏が有利な状況とのことです。
場合によっては、日米ともに政権トップが、交代することになります。
コロナの影響と相まって、時代は、間違いなく大きな変革期を迎えているように感じています。
私は、ここ2.3日、ブログのネタを考えていましたが、なかなか「これは!」というネタが思い浮かんで来ずに苦しんでおりました。
しかし、今日(8月30日)の早朝に見た夢の内容が「ビビッと」来ましたので、その内容についてお伝えしたいと思います。
目次
新工場建設に向けて夢が膨らむ会長と社長。その横で一抹の不安を覚える
夢に出てきたのは、中小企業の会長と社長から、銀行の担当者と一緒にお話しを聞いているシーンです。
その企業は、会長が創業された電子部品を製造される中小企業です。
会長は70代後半、社長は50代前半です。
3年前に社長交代して、日常の経営判断は、社長が行い、重要な事柄については、2人で相談しながら経営を行っています。
自社株は、100%会長が保有していて、現社長にどのように株式を引き継がせるのか等、事業承継対策について取組む必要性がある状況です。
コロナ禍にもかかわらず、業績は絶好調であり、大手メーカーからの新たな受注も増えている状況です。
このようななかで、本社および本社工場の隣にある古い倉庫が建っている土地に、新たに最新鋭の設備を整えた第2工場の建設を計画されています。
建設費および設備導入費用等は、億円単位であり、大半は銀行からの借り入れを予定しています。
建設予定地は、会長の個人所有の土地であり、現状も会社に賃貸して地代をもらっていて、新工場建設後も引き続き会社へ賃貸する予定です。
この計画について、銀行の担当者は、当社の業績、今後の受注の見通し、担保となる会長所有の土地の価格などから、融資については問題ないとの見解を示し、早速、本部あてに申請書を作成するとのことです。
最新鋭の設備が導入された新工場の建設に向けて、夢が膨らむ会長と社長。
大口の融資の実行が見込まれ、喜ぶ銀行の担当者。
しかし、私はひとり、喜ぶ3人の横で、一抹の不安を覚え、その内容について「伝えておかなければ・・・」と感じていました。
新工場建設計画がとん挫する?
この新工場の建設計画につき、今後予想される流れは、概ねこんな流れになると思います。
現時点の大まかな計画によって、銀行の担当者は、支店長に内容を報告し、書類を作成のうえ、融資本部に事前の申請をして事前承認をとります。
融資が事前のOKがでたとのことで、会長、社長は、設計事務所に正式に設計を依頼し、建設会社は古い倉庫の取り壊し等の作業を始めます。
資金計画が詳細に決まり、銀行は正式に本部に申請書を作成して、正式な承認をとります。
その後、銀行と借用書や担保設定の契約書を交わして、融資が実行されることになります。
新工場が建設される土地を借入の担保に入れるにあたって、土地はあくまでも会長個人の所有ですから、会長の意思表示が必要になります。
もしこの流れのなかで、担保設定の手続をする段階で、高齢の会長が、認知症などで意思判断能力が低下していたらどうなるでしょうか?
会長本人の意思が確認できなければ、銀行としては、担保設定の手続をすることはできなくなります。
たいていの場合、銀行融資は受けらなくなり、新工場建設の計画はとん挫してしまいます。
すでに、設計料や古い倉庫の取り壊しなどの費用が発生しているなかでの計画の中止です。
場合によっては、生産増を期待し注文を増加させる意向であった大手メーカーの信頼を損ねることになってしまいます。
「成年後見制度」って、頼れるの?
認知症などで意思判断能力が低下した人に代わって、財産の管理などを行う人(成年後見人)を家庭裁判所の選任してもらうしくみとして「成年後見制度」があります。
「成年後見人」は、意思判断能力の低下した本人に代わって、預貯金の引き出しや不動産の賃貸や売却などの手続を行うことができます。
つまり、本人に代わって「ハンコ」を押すことができます。
しかし、その「ハンコ」を押す基準は、あくまでも「本人の財産を守る」ことが大原則となります。
この電子部品メーカーの場合、意思判断能力が低下した会長の代わって「ハンコ」を押す「成年後見人」を立てる方法も考えられます。
しかし、あくまでも「成年後見人」は、家庭裁判所が選任しますので、必ずしも家族が「成年後見人」になれるとは限りません。
裁判所の資料によると、現在「成年後見人」の4人にうち3人は、本人の親族ではなく、弁護士、司法書士など専門家がなっています。
※下記リンク「成年後見関係事件の概況 ―平成31年1月~令和元年12月-」のP10~P11をご確認ください。
すなわち、親族ではなく「赤の他人」です。
会社経営者など、ある程度の資産をお持ちと考えられる方は、まず確実に「赤の他人」が「成年後見人」になります。
会社が新工場建設のための融資を受けるにあたって、会長個人所有の土地を担保に入れることは、会社が融資の返済をできなくなるなどの場合、その土地が会長の手から離れて、銀行の管理下に入ってしまうことも考えられます。
これは「本人の財産を守る」ことからは、大きく外れることになりますから、家庭裁判所から選任された「成年後見人」も、家庭裁判所も認めててくれることは、ありえないと考えられます。
会長が元気な時には、了解していたことであってもです。
他にも、このケースでは、専門家が「成年後見人」になることで、重大な問題が起こります。
それは、会社の「経営権」の問題です。
会長が100%株式を保有している状態で、意思判断能力が低下し、専門家が「成年後見人」に選任された場合、株主として「経営権」は、100%専門家が持つことになります。
「経営権」として代表的なものは、役員の人事権があります。
社長をはじめ、役員の人事権を、今まで会社のことを全く知らなかった「赤の他人」が持つことになります。
これは、かなりおかしな状態だと思いませんか?
場合によっては、会社の経営に大きな支障をきたすことになりかねません。
「家族信託」で会社を守る!
高齢の会長が所有している土地のうえに、融資を受けて新工場を建設するというこの案件には、会長が認知症などにより意思判断能力が低下した場合、計画がとん挫してしまうリスクを抱えています。
今は元気でも、80歳近くになれば、転んで骨折したなどのきっかけで、短期間の間に認知症になり、意思判断能力が低下してしまうことが、多々あります。
認知症だけでなく、脳梗塞などにより、意思判断能力が低下することも考えられます。
このような事態に対応するための方法のひとつとして、会長が元気なうちに「家族信託」に取り組んでおく方法があります。
※「家族信託」の基本的な仕組みなどについては、下のリンクからご確認ください。
会長が元気なうちに、新工場建設予定の土地を「信託財産」として、「信託財産」を管理・処分する権限を持つ「受託者」を長男である社長にし、「信託財産」からの収益を受け取る権利を持つ「受益者」を会長とする「家族信託」契約を結びます。
そうすれば、もし会長の意思判断能力が低下した後でも、社長が自分の判断で土地の管理・処分することが可能になります。
また、会長は会社からの地代を引き続き受け取ることができます。
事前に銀行との打合せが必要となりますが、すなわち、新工場建設のための融資を受けるための担保設定の手続を行うことができるようになります。
「家族信託」は、認知症などによって、財産が動かせなくなるリスクに備えるための手段として、ここ数年注目が集まっています。
認知症の対策だけでなく、財産の引き継ぐ先を指定しておく機能もあり、相続の対策・・・「争族(争う族)」の対策の手段としても、有効に活用できるしくみで、今後ますます必要性が高まる制度です。
しかし、残念ながら「家族信託」について、相談できる専門家は、まだまだ少ないのが実情です。
一般社団法人家族信託普及協会が認定する「家族信託コーディネーター」などに相談してみるのもひとつの方法です。
まとめ
日々、営業、販売、仕入れ、生産、資金繰り、人事など 様々な問題に奮闘されている中小企業経営者の方にとっては、将来の事業承継や相続について考えることはどうしても、後回しになりがちです。
しかし、事業承継が上手くできなかった場合、経営者一族だけではく、社員や社員の家族、取引先、地域社会にまで、影響を及ぼすことも考えられます。
それに、今回の事例のような経営者が認知症になった場合のリスクもあります。
事業承継対策、認知症対策ともに、元気なうちにしか取り組むことはできません。
また、事業承継対策は、じっくり時間をかけて、様々な方面から検討しながら、すすめることが肝要です。
そのための第1歩として、まずは、早めの情報収集から始めることをおススメします。